大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)3600号 判決

原告

宮瀧運輸株式会社

ほか一名

被告

有限会社塚田運送店

ほか一名

主文

被告らは各自、原告東京海上火災保険株式会社に対し金一三五万二、二三四円およびこれに対する昭和五〇年六月一二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告宮瀧運輸株式会社の請求および原告東京海上火災保険株式会社のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告宮瀧運輸株式会社と被告らとの間に生じた分はこれを全部同原告の負担とし、原告東京海上火災保険株式会社と被告らとの間に生じた分はこれを全部被告らの負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは連帯して原告宮瀧運輸株式会社に対し、金二一一万四、一九二円およびこれに対する昭和四九年一〇月三〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

被告らは連帯して原告東京海上火災保険株式会社に対し、金一七〇万円およびこれに対する昭和五〇年六月一二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四九年一〇月二九日午前一〇時五〇分頃

2  場所 兵庫県赤穂市有年原三三三番地、国道二号線上

3  加害車 (事故車)足立一一か九〇五三号

右運転者 被告児玉秋男

右車両保有者 被告有限会社塚田運送店(以下被告会社という)

4  態様 訴外山本信弥が原告宮瀧輸運株式会社(以下原告宮瀧運輸という)所有の被害車両(神戸八八か八八八号)を運転して国道二号線を東進中、おりからこの道路を西進してきた被告会社の運転手である被告児玉秋男運転の加害車がセンターラインを超えて被害車に衝突したものである。

二  責任原因

1  本件事故は被告児玉秋男のセンターラインオーバーによるものであるから、同人には自賠法三条および民法七〇九条により本件事故で原告らが被つた損害を賠償する責任がある。

2  被告会社は被告児玉の使用者であり、被告児玉は被告会社の業務に従事中本件事故を発生させたものであるから、被告会社は民法七一五条一項により本件事故で原告らが被つた損害を賠償する責任がある。

三  損害

原告らは本件事故でつぎの損害をうけた。

1  原告宮瀧運輸

(一) 被害車両時価評価額金一七〇万円

被害車両は修理不能(仮に修理すれば修理費が車両時価額より高額となるので時価を限度とする)であるから、右時価をもつて損害額とするとの考えに基き車両損害を算出している。而して右事故がなければ有したであろう被害車両の時価の算出は本件被害車両の新車当時の価格に法定償却率を乗じて残存価値を割出す方式によつた。

(二) 移動タンク貯蔵所架装費金一〇二万円

これは原告宮瀧運輸がスクラツプからタンクを再利用して新車に乗せ替える作業をした結果必要としたもので、危険物のタンクであるため乗せ替えるといつても綿密な修理と検査が必要で(危険物のタンクは行政指導も厳しい)非常に高額につくのである。

(三) 新規登録諸費用金二四万二、九〇〇円

(四) 被害車両引取搬送費一五万六、二〇〇円

(五) 代車納入稼働までの逸失利益金一九九万八、六九五円

本件被害車両は三菱化成工業株式会社の液体樹脂を専属に運搬していたもので他に使用できない車両であつた。そこで三菱化成からの注文は有無に拘りなく毎月五三万二、〇〇〇円の基本補償額を受け、その他に走行実績により協定上の歩合給(行く場所によりキロ当りいくらと協定されている)を付加して(これが変働費)貰うことになる。

右の方式で事故前三か月の総収入をみると一八三万二、四一五円であるところ、これより必要経費としての軽油およびオイル代金、人件費(ここでいう人件費とは基本補償額以上の歩合給を得るに必要な運転手の給料を指す。この車は常時動いている訳ではないから、運転手もこの車に乗つていない時は他の車の運転に当つている)、車両の維持費を差引いた残額(即ち車があげうる純利益)、これが一か月四六万一、二七三円となる。ところで右事故のため、タンク乗せ替え工事と被告らの不誠意とで四か月一〇日の間車両一台を稼働させ得なかつた。

2  原告東京海上火災保険株式会社(以下原告東京海上という)

(一) 原告東京海上は保険会社であるが、原告宮瀧運輸との間につぎのような自動車損害保険契約(車両保険)を締結した。

保険契約者 宮瀧運輸株式会社

被保険者 右同

保険の目的 ふそう貨物自動車(神戸八八か〇八八八)

保険期間 昭和四九年四月八日から昭和五〇年四月八日まで

保険金額 金一八〇万円

(二) 原告東京海上は前記事故により被保険者が被つた損害のうち、金一七〇万円を昭和五〇年六月一一日被保険者に支払つたので、商法六六二条により右の限度で原告宮瀧運輸の有する損害賠償請求権は原告東京海上に移転した。

(三) 管轄原因

東京海上火災保険株式会社大阪支店は本社から独立して大阪地域(兵庫、和歌山、奈良、大阪)の保険業務全般を統轄管理する組織、権限を有している。よつて、民事訴訟法四条一項の趣旨により大阪支店の所在地(大阪市東区高麗橋四丁目一一番地)を管轄する大阪地方裁判所に原告東京海上の普通裁判籍がある。

四  損害の填補

原告宮瀧運輸はつぎのとおり支払を受けた。

1  加害者より一〇〇万円

2  原告東京海上より車両保険金一七〇万円

3  被害車両スクラツプ代 一五万円

五  本訴請求

そこで、原告宮瀧運輸株式会社は被告らに対し、右損害金のうち二一一万四、一九二円およびこれに対する本件不法行為の翌日から支払済まで、原告東京海上火災保険株式会社は被告らに対し、金一七〇万円およびこれに対する代位弁済の翌日から支払済まで、それぞれ民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁

被告児玉

事故発生の事実は認める。

被告児玉は被告有限会社塚田運送店の使用人ではない。

被害車両の各損害は不当に高額である。

保険の契約内容は知らない。支払も知らない。

被告有限会社塚田運送店

一の事実は、加害車両の保有者が被告会社であり、被告児玉がその運転手であることを否認し、その余は認める。

二の事実については、被告児玉に過失があることは認めるが、被告会社が被告児玉の使用者であり、同被告が被告会社の業務に従事中本件事故を発生させたとの点は否認する。なお、本件は物損事案であるので自賠法三条の適用はない。

三の1原告宮瀧運輸株式会社の損害はいずれも争う。

保険填補額も不知

三の2の事実は不知

ここで被告会社の業務、被告会社と被告児玉の関係につき詳述する。

一  被告会社は、免許を受けて一般区域貨物自動車運送事業を営むもので、東京都を事業区域とし、一二台の登録車両を有している。

二  本件加害車の使用者届出名義および検査証名義は被告会社となつているが、これは被告会社代表者塚田常蔵が昭和四九年九月中ごろ、被告会社新宿支店内で日通関係の仕事をし、右塚田常蔵の息子の知り合いであつた訴外小倉高男から運送業の事業実績を上げるため被告会社の登録車両一台を貸して欲しい旨懇請され、右塚田も小倉が使用するものと思い、これを了解して登録に必要な印鑑証明書等を交付したことによる。

このように、被告会社としては右小倉が車両を購入し登録手続を為すものと思つており、被告児玉は小倉の使用する運転手と聞いていたところ、本件事故が発生して調査してみると、加害車両は被告会社の認識と異なり、被告児玉が購入し同人が登録手続をして登録税や強制保険金を負担し、車両の割賦代金も支払つていたことが判明した。結局被告児玉は被告会社に無断で登録名義を使用していたのである。

三  被告会社は、登録名義の貸与以来本件事故までの間に加害車両を使用したことも保管に関与したこともないし、ガソリン代、修理代等を負担したこともなく、名義貸与料を貰つたこともない。

四  被告会社は、被告児玉や訴外小倉に運送の依頼や仕事の斡旋をしたこともなく、勿論専属的な従属関係もない。同人らは被告会社の営業には全く関与しておらず、本件事故時の運行も被告会社と全く関係のないものである。

五  被告児玉が本件事故に関し警察官に述べた供述調書中には、いかにも同人が被告会社の従業員であるかの如き供述記載があるが、これは被告児玉が無免許営業で処罰されることを恐れて、取調を速やかに終えてもらうため、同乗していた訴外鈴木と謀つて口裏を合せたもので、事実と全く異なるものであり、また労災扱いとしたのも被告児玉が治療費の支払もできず、窮状にあつたので、同人の親戚から懇願されたため治療費に限り労災給付の便宜を与えたもので、これをもつて被告間に実質的な人的関係が存したということにはならない。

六  ところで名義貸与者の責任に関しては自賠法三条につき、車両の登録名義、保険加入名義、車体表示の貸与を受けた者が屑鉄回収業者である名義貸与者の運送を専属的に担当し、運送部門担当と同視できる事例(最高裁昭和四四・一・三一、交民集二・一・一)や、自動車登録原簿、検査証の使用者名義、車体表示の貸与を受けた者が専属的に貸与者の製品等の運送に従事し、車の購入代金も立替えて貰い運賃から差引いて支払つていた事例(最高裁四四・九・一八、最判民集二三、九、一六九九)では責任を肯定しているが、車体表示の貸与者が継続的運送契約上の注文主にとどまり、被貸与者と専属ないし優先的取扱関係がない事例(最高裁昭和四五・二・二七、交民集三、一、四三)では責任が否定されており、単に形式的な名義の貸与関係から責任を認めることなく、貸与者と被貸与者間に実質的な関係が存するか否かで責任の有無が決せられている。これら判例と学説の傾向からすると、前述の被告会社と被告児玉の関係からは被告会社の責任を認めることは困難である。まして本件は「物損請求事案」で被害者救済が前面に出る保有者責任が問題となる事案ではないし、被告会社が被告児玉の無謀な運転の責任を転稼される合理性は存しない。

甲第一一号証も被告会社代表者が損害の請求に対し「最善を期します」と記載しただけで、被告会社の責任を認めたものではない。

七  このように本件加害車両が被告会社名義となつているのは、形式的な名義貸であるに過ぎなく、被告会社と被告児玉の間には人的関係がないばかりか、被告児玉の運行は被告会社の事業とも全く関係なく、また加害車両を被告会社が支配したこともないから、被告会社は民法七一五条の責任を負うべきいわれはないものである。

つぎに被害車両の損害につき言及する。

一  原告宮瀧運輸は、被害車両の修理費が車両の時価を超えるものとして時価相当額一七〇万円の車両損を請求し、それに見合う鑑定書を提出している(甲第二号証)が、右鑑定は客観的合理性を有しない。山本鑑定人はこの一七〇万円の算出根拠として「事故当時の本件車両の新車価格に法定償却率をかけ残存価格を出した。耐用年数は五年とした」と説明している。

(一)  ところで、同鑑定は右新車価格として五〇〇万円を計上しており、この価額は車体(キヤブ・シヤーシー)価格の二三〇万円と、タンクの新車価格の二七〇万円を合算したものである。しかし、本件車両は車体こそ昭和四七年六月に新車で購入しているものの、タンクはそれよりずつと以前の昭和三八年八月二四日の購入品を数度乗せ替えて使用したものである。そうすると両方とも新規に購入するものとして計上した五〇〇万円は前提において誤りがある。

(二)  同鑑定は法定償却率として〇・三五五を適用しているが、これは定率法を参考としたものであるところ、同率残額表によると、これは耐用年数を五年、経過年数を二年三月とみた数額である。しかし一般に残存価格の算定に使用されている大蔵省令の新車の耐用年数表によると、本件被害車両のようなタンク車は小型で三年、それ以上のものは四年である。しかも経過年数は新規購入されたのが昭和四七年六月であるから、二年四月である(二年三月ではない)。

山本証人はこの点の指摘に対し、右資料を参考にはしたが、これだけでは不合理となるので、自分の主観で耐用年数を五年と把握したというが、何故に交通事故の車両損害の算定に一般に適用されている右取扱を恣意的に変更したかの根拠の説明が充分でなく到底納得できるものではない。しかるときは、新車価格を仮に五〇〇万円としても時価はつぎのとおり金一三〇万円となる。

五〇〇万円×〇・二六一=一三〇万五、〇〇〇円

二  右原告は、タンクを含めた残存時価額に加えて、タンク架設費一〇二万円を請求しているが、これは二重請求である。

前記車両損一七〇万円はタンク付新車の現存価格を評定したもので、新たにタンクも取付けられた車両に比して現存額はいくらかを算出したものである。従つてこれを請求しながら、その評価の対象とされたタンクを乗せ替えるとして架設費用を請求することは許されない。

若し、このような請求をするのであれば、車両損はタンクを除いた車体の新車価格二三〇万円についてのみ残存額を求め(その額は二三〇万円×〇・二六一=六〇万〇、三〇〇円となる)、これと併せてタンクの架設費用を請求することとなろう。

さらに右乗せ替え費用一〇二万円も不当に高額である。右金額の内訳は(イ)乗せ替え工事代七五万円、(ロ)ホース箱、化粧板左右一式二五万円、(ハ)その他配管改造道具箱など二万円であるが、このうちの(ロ)と(ハ)のうち道具箱は乗せ替え工事と直接関係なく、原告は事故により新規なものを取得することになるので被告らが負担すべき筋合のものではない。仮に(ロ)について乗せ替えと関連して必要であるとしても、被害車両の損傷は右側のみで、左側の器具はそのまま再利用できたのであるから、その損害は二五万円の半額にとどまる。

三  新規登録費用のうち、自賠責保険金九万八、九五〇円は新規購入と関係なく車両所有者が負担するものであるから、被告らへの請求は失当である。仮に認められるとしても、新規払分から従前の車両の解約分を控除した残額のみ請求しうるというべきである。

四  原告宮瀧運輸は本件被害車両の月別実収入額を金四六万一、二七三円として四か月と一〇日分の得べかりし利益の喪失額を請求しているが、右月収額の算出根拠としている甲第七号証を一見すると判明する如く、一台の車が月に四、五〇〇キロメートルも走行しながら、その運転手の人件費が僅か四万五、七六〇円という低額であるなど、その算出過程は非常識なもので到底是認されるものではない。基本補償額が全額収益として残るということ自体納得し難い。

さらに、損失の対象期間を四か月一〇日とするのも長すぎる。全損扱いとして、新車を購入するまでの間を対象とするのであれば、社会通念として新車の申込をして後日納入されるまでの通常の期間を計上すべきであり、これを長くみても二か月である。

被告会社の態度が優柔であるため購入申込が遅れたことは、期間を長期化する特殊事情とはなり得ない。従つて休車損については、右原告主張の人件費を少くとも運転手一か月一人分の額に引直し、期間を二か月分に計算しなおすべきである。

第四被告会社の主張に対する原告の反論

一  被告児玉は本件事故についての捜査機関(赤穂警察署所属巡査)に対する供述調書中に、昭和四九年九月から被告会社である塚田運送店に運転手として入社し、約一三万円の給料をもらつており、事故時も会社の車を運転していた旨述べている。

また、加害車に同乗していた鈴木道夫も塚田運送店で運転手助手としてアルバイトをし、事故当日も会社の車に乗つていたと述べ、さらに被告児玉を正社員であると供述している。

二  労災の適用

被告児玉は事故後自身の負傷を治療するため、被告会社の従業員として労災給付の適用を申請し、治療費ならびに休業補償の給付をうけている。

三  被告会社は登録番号、名義の貸与であるというが、仮にそうであつたとしても、貸与自体違法であり、民法七一五条に関し指揮監督可能説(判例の立場)によれば、右の如き違法な貸与を為す場合は余程の関係がない限り通常貸与せず、当然指揮監督可能範囲にあるものといえる。

被告会社にとつても危い橋を渡つているのであり(発覚すると免許取消となる虞あり)、当然貸与するには相手の人柄、営業規模等も知つている訳であり、少くとも知つておかなければならない。ましてや労災の適用上被告児玉を従業員として届出る等している場合は益々指揮監督可能であつたというべきである。

以上の次第で被告会社は民法七一五条の責任を負わないとの主張は失当である。

証拠〔略〕

理由

一  請求原因一(事故の発生)の事実は、加害車両の保有者が被告会社である、被告児玉が被告会社の使用人であるとの点を除いて当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない甲第九号証の二、三、四および弁論の全趣旨によれば、本件事故発生現場はアスフアルト舗装された平たんな直線道路で前方の見通しはよく、道路標識によりはみ出し禁止に指定されているところで、車両走行速度は時速五〇キロメートルに制限されている。被告児玉は右道路を時速五〇キロメートルくらいで加害車両を運転西進中、前方交差点の信号に気をとられて進路前方の交通の安全を充分確認しないまま進行していたため、自車左前方を対面進行してくる自転車乗りを一八・五メートルくらい先に初めて気付き、さらにその自転車乗りがふらついて自車進路上に寄つてくるように見えたので慌ててしまい、これとの接触を避けようとして対向車線内の車両の有無に留意しないままにハンドルを右に切つたところ、自車々体前半部がセンターラインを超えてしまい、おりから対向車線内を東進してきていた訴外山本運転の被害車両(大型タンクローリー)前部右側に自車右前部を衝突させたことが認められる。

ところで、自動車を運転する者は運転中は常に進路前方を注視し、交通の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があるところ、右認定事実によれば被告児玉において前方注視義務を充分尽していなかつたため、対向自転車の存在に気付くのが遅れたばかりかその気分的動揺からこれとの接触を避けようとして前方の交通の安全も確かめないままハンドルを右に切つてセンターラインを超えた過失により本件事故が発生したことが明らかであるから、被告児玉は民法七〇九条によつて、本件事故で原告らが被つた損害を賠償する責任がある。

三  つぎに被告会社の損害賠償責任の有無につき判断する。

(一)  成立に争いのない甲第九号証の一と被告会社代表者塚田常蔵、被告児玉秋男本人の各尋問結果によると、被告会社は一二台の登録車両をもち、免許を受けて一般区域貨物自動車運送事業を営むものであるところ、昭和四九年八月か九月の半ばころ、被告会社の代表者である塚田常蔵が当時被告会社の新宿支店内で日通関係の仕事をし、右常蔵の息子の知合いでもあつた訴外小倉高男から登録車両(青ナンバー)一台を貸して欲しいとの申入を受け一度はこれを断つたものの、息子を通じ再度懇願されるに及んで、結局小倉に車両購入にあたり被告会社の登録名義とすることを了解し、登録に必要な印鑑証明書等を同人に交付した。ところで新車購入に先立ち、小倉は被告児玉を伴つて右常蔵のもとに来たので、その時既に小倉が一台の車両を持つていることを知つていた常蔵から小倉に「もう一台車を借りてどうするのか、運転は誰がするのか」を尋ねたところ、被告児玉に運転させるとのことであつたので、常蔵としては被告児玉は小倉の使用人であるくらいに思い、運送事業の免許は事業実績がないと簡単に取得できるものではなく、それも白ナンバーで仕事の実績を上げても駄目なので、運送業者の方から登録車両で空車があるとそれを借りて実績を上げ運送業の免許を取得する者も多いので、小倉もその様にしているものと考えていたこと。一方被告児玉は仕事仲間であつた小倉から青ナンバー借入れの話を聞き、小倉に同道して右塚田常蔵方に一度だけ行つたが、本件加害車両を訴外東京三菱扶桑自動車販売株式会社から買入れるにあたつての交渉は小倉がし、手形信用の関係上代金支払は被告児玉においてなし、自賠責保険金の払込も被告児玉がした。

このような次第で、本件加害車両につき自動車登録原簿の使用者名義は被告会社となつているものの、その保管、使用は購入後一切被告児玉においてなし、被告会社および塚田常蔵にあつては一切関与していない(その車両を見てもいない)し、被告児玉や訴外小倉からも名義貸し料、営業ナンバー貸与料等を受取つてもいないこと。さらに被告児玉が本件加害車両を使つて被告会社の仕事をしたということもないし、本件事故当日の運行も被告児玉が自分の仕事として加害車両を使用して自分の住居から四国の松山にみかんの積込に向う途中の事故で、当時同乗していた訴外鈴木道夫は被告児玉の友人で、被告会社とは雇傭関係はおろか一面識もないもので、荷の積み降ろしの手伝をさせるため乗込ませていたものである等の事実が認められる。

もつとも、成立に争いのない甲第九号証の三、四には、本件事故での警察官の取調べにあたり、被告児玉は昭和四九年九月から現在の勤め先の被告会社に自動車運転手として入社し、月収は勤めたばかりではつきりわからないが約一三万円の給料になつていた。事故の時運転していた大型貨物は被告会社が昭和四九年九月二一日に新車で購入したもので、私が専用で運転していて一か月以上乗つておると供述し、訴外鈴木道夫にあつては、被告会社に事故の前日(昭和四九年一〇月二八日)から運転助手のアルバイトとして入社した、正社員の被告児玉が運転し、昨日(右一〇月二八日)午後九時ごろ、被告会社を出発し四国方面へみかんの仕入れに行く途中であつた旨を供述しているが、これら各供述部分は被告児玉本人尋問の結果によると、もしここで真実を供述すれば自分の無免許運送営業が発覚し、ひいては営業ナンバーを貸与した被告会社にも迷惑をかけることとなるので、敢えてこのような虚偽の供述をしたものであることが認められるので、右書証中これらの供述部分に関しては信用できない。なお被告会社は結局被告児玉において本件加害車両の新規登録にあたり被告会社の名義を無断で使用したと主張するが、前記認定事情および被告会社代表者塚田常蔵、被告児玉本人の各尋問結果とこれらにより真正に成立したものと認められる甲第一〇号証(官公署ならびに被告会社作成部分は成立に争いがない)によつて認められる本件事故後被告児玉の親戚から児玉が右事故で大怪我をしているのに治療費も支払えない窮状にあることを聞き、労災保険の適用を受けられるよう懇願されたためとはいえ、被告会社からこれを了承して事業上災害として療養給付に限つてではあるが、労災の補償給付を申請し、受給していること、ならびに弁論の全趣旨(因みに被告会社は当初仲介者を通じ被告児玉に懇請されて昭和四九年九月二一日同人が新たに本件加害車両を購入するに際して被告会社の登録車両一台の登録番号を貸与したと主張していた)を総合考慮すると、被告児玉が右登録名義を使用したことも被告会社にとつて全く予見できなかつたことといえないばかりか、必ずしも被告会社の意思に反していたともいえない状況が窺える。

(二)  而して、民法七一五条一項所定の使用者責任を問うには、使用者と不法行為者との間に使用、被用の関係があることが必要であるが、これは雇用契約の場合に限られず、ある者が他人のためその指揮、監督のもとにその意思に従い事業の執行をすべき関係にあればよく、使用者責任は客観的にその企業に属するとみられる者の事業上の活動について使用者に責任を負わせるという性質のものであることからこの関係も客観的に考察すべきものである。そこで本件についてみるに、およそ自動車運送営業は現行制度上一定の基準に達しなければ免許を得られないものであるから、その免許を受けた営業者が無免許者に対して自己の商号使用を許したとみられる場合には、名義貸与自体が違法性を帯びるに止まらず、これを使用する者がたとえ自己の責任と計算において運送を行なう者であつたとしても、被告会社の営業登録ナンバーを付して本件加害車を運行の用に供していた以上、それは客観的には名義貸与者たる被告会社の事業の執行とみられる関係にある(客観的にみてそれが使用者の支配領域内のことがらであると認められる)から、名義貸与許諾者たる被告会社は被貸与者とみられる被告児玉に対して、自動車の運行による事故の発生を未然に防止するよう指揮、監督すべき義務を負うものと解せられるうえ、被告児玉に右事業の執行につき過失のあつたことはさきに認定のとおりであるから、被告会社は民法七一五条一項により、本件事故で原告らが被つた損害を賠償する責任がある。

(結局、民法七一五条一項の適用上は被告会社がその保有する登録車両を無免許営業者たる被告児玉に貸与したと仮定される場合と本質的には異ならないということができる。)

四  本件事故による損害

(一)  被害車両の事故当時の時価

証人山本増蔵の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第二号証によると、原告宮瀧運輸所有にかかる本件被害車両はタンクを含め全部を新品とみた場合に五〇〇万円の価値を有する(うちタンク部分が二七〇万円、その他車両部分が二三〇万円)が、本件のようなタンク車の税法上の取扱における耐用年数は一般的には四年とされているが、本件被害車にあつてはタンクが特にステンレス製の強靱なものであつた(通常は鉄製)ことから、その耐用年数を四年とみると、業界市場の価格に比し低額となるので、これとの均衡を失しないため、タンクの強度を考慮に入れ貨車一体の建前から、特に耐用年数を五年とみたうえ二年三月を経過した場合の法定償却率〇・三五五を乗じて一七〇万円と算定したことが認められるところ、後記のとおり原告宮瀧運輸においてこのうちタンクのみは別途に再利用していることが認められるので、これを除いた場合にはもはやタンクの特殊事情を考慮する必要がないことになるので、本件車両についてもその耐用年数をタンク車一般の耐用年数である四年とみて、これに当事者双方において援用している前記法定償却の方法による車両購入時(昭和四七年六月)より二年四か月を経過した右事故当時における減価償却率〇・二六一を乗すると、その残存時価額は金六〇万〇、三〇〇円であることが認められる。

(二三〇万円×〇・二六一=六〇万〇、三〇〇円)

減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭四〇大令一五別表)、耐用年数の適用等に関する取扱通達(昭和四五直法四―二五)付表7参考

(二)  移動タンク貯蔵所架装費

証人村井英稔の証言およびこれによつて真正に成立したものと認められる甲第三号証の一ないし五によると、原告宮瀧運輸は本件被害車両(タンクローリー)のタンクについては再利用が可能であつたので、大阪市此花区内の東南興産株式会社に他の車両への右タンク乗せ替え工事を依頼した結果、(1)タンクローリー修理、乗せ替え工事一式七五万円、(2)ホース箱、化粧板一式(新規)二五万円、(3)配管一部改造、道具箱一個取付等二万円、此合計一〇二万円を要したことが認められるが、このうち(2)については、前掲甲第二号証、証人村井英稔の証言によつても、事故で破損したのは片方(右側)だけであるが、消防上の要請から両方とも同じ様にしなければならないので、このように両側を新しくしたことが窺がえるので(2)の費用二五万円の半額(一二万五、〇〇〇円)については本件事故による損害と認めるが、他の半額についてはにわかに本件事故との間に相当因果関係を認め難い。

(三)  新規登録費用

その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一二、第一三号証、証人村井英稔の証言およびこれにより成立を認められる甲第四号証によると、原告宮瀧運輸は被害車両を新車に買い替えた結果、(1)納車諸費用一万円、(2)自賠責保険金九万八、九五〇円、(3)自動車取得税九万六、四五〇円、(4)自動車重量税三万七、五〇〇円、此合計金二四万二、九〇〇円を要したことが認められるが、このうち(2)自賠責保険金九万八、九五〇円については、証人村井英稔の証言によつても被害車両が加入していた自賠責保険の解約金のあることが認められるので、右買い替えによる関係での保険金の損害は右払戻額が明らかにされない以上、結局損害額が明らかにならないので、これを本件事故による損害と認めるに由ないこととなる。

(四)  被害車両引取搬送費

証人村井英稔の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第五、第六号証によると、原告宮瀧運輸は被害車両を事故現場においてリヤーシヤフト抜き、ブレーキ回り開放、車両の喰込み引離しのうえ、これらの作業を引受けた兵庫県揖保郡太子町の朝日自動車工業株式会社までレツカー車で牽引、搬入した費用として同会社に対し六万三、〇〇〇円、さらにここから大阪市此花区内まで同車を牽引してきた大阪三菱ふそう自動車販売株式会社に対しレツカー車代九万三、二〇〇円をそれぞれ支払つていることが認められる。

(五)  休車損害

証人村井英稔の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第七号証によると、本件被害車両による事故前三か月(昭和四九年七、八、九月)の一月当り平均水揚げ高(運賃収入)は金六一万〇、八〇五円、右期間内の同平均必要経費(軽油、オイル代、車両維持費―自動車税、車両重量税、自賠責保険料、任意保険料、車両定期検査費)は金一四万九、五三二円であること、被害車両は危険物タンクローリー車であるので、同車を運転するには国家試験をうけ免許取得の必要があるところ、訴外山本信弥(事故当時の被害車両運転者)はその資格を有していたことが認められる。しかし右必要経費には車両運転手の人件費が含まれていないことが明らかであるから、被害車両稼働による純利益を算出するにはさらに人件費を控除すべきところ、本件全証拠によるも右山本が被害車両を専属的に運転していたものか否かは必ずしも明らかでないが、前認定の事情より同人において専属的に運転を担当していたものと推認したうえ、人件費として同人の収入をみるに、前掲甲第一〇号証中の原告宮瀧運輸、訴外山本信弥、同村井英稔共同作成にかかる足立労働基準監督署長宛の昭和五〇年一月一六日付「第三者行為災害報告書について」と題する書面の別紙「三者6号様式~1」によると、右山本の平均月収は金一六万七、八八一円(昭和四九年八、九、一〇月の平均賃金)であることが認められるので、前記金額よりこれを差引いた被害車両稼働純利益は結局一月当り平均で金二九万三、三九二円であることが認められる。

ところで、証人村井英稔の証言および前掲甲第一三号証によると、本件被害車両については、修理するか、代車を購入するかについて話合いが速かに進展しなかつたため(当初は修理を前提としていた)、新車購入を決めるのに年末までの日時を費してしまつたことが認められるが、同人の証言によつても一旦購入申込をすれば四〇日くらいで新車を入手できること、これに交渉の期間を考慮しても通常の場合は二か月くらいの期間を見込んでおけば足りることが明らかであり、本件にあつて期間が延びたのも原告宮瀧運輸側において好意的に待つた状況も窺えるので、その責を全て被告らに転稼することはできない。そこで右認定事情からすると結局本件事故による通常の休車期間は二か月間とみるのが相当であるから、この間の休車損害は金五八万六、七八四円と認められる。

右金額を超える分についてはにわかに本件事故と相当因果関係を認め難い。

五  原告東京海上の保険金支払

前掲甲第二号証、証人山本英稔の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第八号証によると、請求原因三2(一)(二)の事実(原告東京海上から被保険者である原告宮瀧運輸に被害車両の保険金一七〇万円支払の事実)を認めることができる。そうすると、原告東京海上は商法六六二条により右保険金支払の限度で、原告宮瀧運輸が被告らに対し有する損害賠償請求権を取得したことになる。

六  原告宮瀧運輸の損害の填補

被告児玉から金一〇〇万円を受領したことは原告宮瀧運輸において自認するところであり、原告東京海上より保険金一七〇万円の支払があつたことは前項で認定したとおりである。

なお被害車両のスクラツプ代については、証人山本増蔵の証言によると、タンクを含めた被害車両全部をスクラツプとする場合には、金一五万円の価値を有するが、タンクを再利用する場合の残余車体のみの価格はたかだか金三万円までであることが認められる。

そこで、同原告の前記損害額(金二三八万二、二三四円)から、右填補額(原告東京海上支払の保険金を含む)を差引くと、残損害額はないことになる。

七  結論

よつて被告らは各自、原告東京海上火災保険株式会社に対し、金一三五万二、二三四円およびこれに対する代位弁済の翌日である昭和五〇年六月一二日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告東京海上の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、同原告のその余の請求および原告宮瀧運輸の本訴請求はいずれも理由がないので、棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、さらに原告東京海上と被告らとの関係で同法九二条但書、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 相瑞一雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例